少し前、先月の話になるが、お気に入りのブーランジェリーがひとつ増えたので紹介したいと思う。
今年8月、自由が丘にオープンした、世界初の ヴィエノワズリー 専門店「RITUEL par Christophe Vasseur (リチュエル パー クリストフ バスール)」をご存知だろうか。
その「RITUEL par Christophe Vasseur (リチュエル パー クリストフ バスール)」の初の路面店が、2015年11月18日青山にグランドオープンしたので行ってみた。
1号店は同店の運営を手掛ける「Baycruse(ベイクルーズ)」グループのファッションブランド「Maizon IENA(メゾン イエナ)」の1Fに併設するインショップというかたちだったが、今回は初の路面店。
表参道駅の近く、青山通りを脇に入ってすぐの所にある。表参道駅のB2出口から出れば、お店まで1分とかからない。
お店を訪れたのはオープン2日めの夕方、陽も落ち始めて暗くなってきた時間帯だったので、目当てのパンが売り切れてはいないかと心配だったのだが、店内に入ると焼きたてのパンとバターの良い香りが鼻をくすぐった。お店は対面でスタッフに好みのパンを伝えて取ってもらうスタイルで、ガラス越しには目移りしてしまうほどおいしそうなヴィエノワズリーが並んでいた。
「ヴィエノワズリー」ってなに?
フランスでは「朝食の定番」として愛されているのはもちろん、おやつに、小腹が空いたときにと、大人も子どもも食生活のあらゆるシーンに欠かせない「ヴィエノワズリー」。
日本人にはあまり聞き慣れない「ヴィエノワズリー」という名前だが、その意味は酵母発酵させたパン生地や様々なペイストリー生地を焼いた菓子パンのこと。
クロワッサンやデニッシュがその代表格だというとわかりやすいのではないだろうか。名前には馴染みがなくても、菓子パンとして、朝食やおやつとして、実はわたしたちもよく食べていたりするのが「ヴィエノワズリー」なのだ。
ヴィエノワズリー (仏: Viennoiserie) は イースト発酵させたパン生地または様々なペイストリー生地を焼いた菓子パンの総称である。「ウィーンの物」の意。
ヴィエノワズリーは、鶏卵やバター、牛乳、クリーム、砂糖などを用い、おごった味わいや甘さを強調する。しばしば、ヴィエノワズリーの生地は薄く層化(ラミネート)される。ヴィエノワズリーは朝食や菓子として食べられるのが普通である。
出典:wikipediaより
「RITUEL」の店内は、店の顔でもあるヴィエノワズリー「エスカルゴ」をイメージして、有機的な曲線を描くようにデザインされている。その開放的で洗練された雰囲気の店内には、ガラス張りの工房があり、職人が手間ひまを惜しまずひとつひとつ丁寧に作り上げる、ヴィエノワズリーの製造工程を見ることもできる。
フランスの伝統的な製法で作られるヴィエノワズリーを目で楽しみ、歴史に想いを馳せ、舌で楽しむことが出来るとはなんとも贅沢だ。
パリ随一のブーランジェ、クリストフ・ヴァスール氏
ヴィエノワズリーがおいしかったことはいうまでもないが、今回お店を訪れてうれしかったことがもうひとつ、幸運なことにクリストフ・ヴァスール氏に会うことが出来たのだ。
クリストフ・ヴァスール氏は、数々の賞を受賞してきたフランス・パリ随一のブーランジェ(パン職人)。サン・マルタン運河のそばにあり、パリの最優秀ブランジェリーに2度も選ばれているという有名店「Du Pain Et Des Idées(デュ・パン・エ・デジデ)」のオーナーだ。
良質な材料を厳選し、伝統的な製法で丁寧に焼き上げるパンは、どれも深い味わいで、食通のパリジャン・パリジェンヌたちはもちろん、数多くの有名ガストロノミーやレストランに支持されている。
そんな超有名ブーランジェであるクリストフ氏はとても気さくな人で、写真をお願いすると、ココで良い?こっちにする?と店内でポーズをとってくれた。
そんなユニークさがうかがえるクリストフ氏の作るヴィエノワズリーはこだわりに満ちている。
フランスには3万3000店ものブーランジェリーがあるが、現在手作りのヴィエノワズリーを提供する店はそのなかのたった15%しかない。伝統的なクロワッサンの製法を次の世代へ繋げ、本物を味を海外の人にも知ってもらいたいという彼の想いとアイデアで、このヴィエノワズリー専門店が日本にオープンしたのだ。
理想とするパンを作り上げるため、歴史あるレシピを独学で再現し、30時間以上の長時間熟成で叶えた風味豊かなヴィエノワズリーたち。材料はオーガニックとローカルにこだわり、ひとつひとつ手作りで作る手法は、パリで愛される「デュ・パン・エ・デジデ」から通ずる彼のこだわりとヴィエノワズリーへの愛情とも言えるだろう。
お店の公式サイトには、そんな彼のヴィエノワズリーや素材、製法、さまざまなこだわりについて詳しく書かれているので、ぜひそちらも読んでいただきたい。
Christophe Vasseur (クリストフ バスール)
1967年、オート=サヴォワ県の医師の両親のもとに生まれ、幼い頃からパン職人への夢を抱く。1996年からパリ在住。貿易関係の仕事に就くも、夢を捨てきれずスーツとネクタイの日々に終止符を打つ。製パン技術の基礎を習得した後、自身が理想とするフランスの伝統的な製パン技術を研究。その製法を独学で学び、復刻する。2002年、パリ10区にて、19世紀に建てられた歴史的建造物を借り受けて自身のブーランジェリー「Du Pain et Des Idées(デュ・パン・エ・デジデ)」をオープン。店のスペシャリテとなったPAIN DES AMIS(パン・デザミ® )は現在、「アラン・デュカス・オ・プラザ・アテネ」「Passage 53」「Restaurant Saturne」など、多くの著名なガストロノミーレストランにも提供している。フランスの権威あるグルメジャーナル『Gault et Millau(ゴー・エ・ミヨ)』にて「ベストブーランジェリー・オブ・パリ2008」、グルメガイド『Pudlo(ピュドロ)』にて「ブーランジェリー・オブ・ザ・イヤー2012」など受賞歴多数。
出典:http://www.rituel.jp/
LE BOULANGER CHRISTOPHE VASSEUR クリストフ・ヴァスールより
「期間限定」に「日本限定」、目移りしそうなメニューたち
ザクザクッと力強い歯ごたえとキャラメリゼされたバターが香ばしいクロワッサン、自家製カスタードクリームに旬のフルーツやナッツを合わせた様々な種類のエスカルゴ、オーガニックショコラバーを折り込んだショコラティンなど、パリでも大人気のヴィエノワズリーたちは目移りしてしまうほどにどれも魅力的だ。
どのメニューも、彼の素材へのこだわりのひとつである「可能な限りローカルであること」に基づいて、北海道産の有機小麦ハルキラリや山梨・黒富士農場の放牧卵、千葉・大地牧場の牛乳などが使用されている。
バターはクリストフ氏が信頼し、パリの店でも愛用する風味豊かなA.O.C.バターPAMPLIE(パンプリー)を使用。フランスの農業コンクールで毎年数々の賞を受賞している優れたバターの作り手の協力を得て、フランスから直接仕入れている。
そんな素材にこだわったラインナップから、今回わたしがチョイスしたのはこれらのヴィエノワズリーだ。
秋冬限定のショソン・ア・ラ・ポム・フレッシュ
パリの「Du Pain Et Des Idées(デュ・パン・エ・デジデ)」の秋冬を代表する「ショソン・ア・ラ・ポム・フレッシュ」は、選りすぐった上質な国産のオーガニックりんごを皮付きのまま半分に割り、パイ生地で包んで蒸し焼きにしたもの。
砂糖は一切使わないオリジナルレシピで、パイ生地の中で蒸し焼きにされたりんごの果糖が溢れ出し、鉄板の上でキャラメリゼされることによって完成する100%の甘みが最大の魅力だ。
贅沢に半玉使用されたりんごの酸味と甘み、そして果実のジューシーさが感じられる、たまらない逸品!
期間限定の商品でりんごの収穫を終える2月頃までは店頭に並ぶ予定だという。この時期しか食べることのできない、パリでも大人気のこの特別なメニューは、ぜひ食べ逃さないでいただきたい。
エスカルゴ・ショコラピスターシュ
「RITUEL」の看板メニューであるエスカルゴの中でも、店頭で一際目を惹くのが、鮮やかなグリーンのピスタチオをふんだんに使用した「エスカルゴ・ピスターシュ」。
ピスタチオはナッツの女王とも呼ばれるほど栄養価が高く、美容や健康にも良いことでクルミやアーモンドなどのナッツ類とともに注目されている。バターや砂糖をふんだんに使ったカロリーの高そうなヴィエノワズリーは、女性として食べることに罪悪感を感じずにいられないが、美容や健康に良いと言われるナッツがたくさん折り込まれているなら、少し罪悪感も薄らぐ気がするのは間違いだろうか。
冬季限定日本オリジナルフレーバーのエスカルゴ・カフェノアゼット
冬季限定で青山店で先行発売となっている「エスカルゴ カフェ・ノワゼット」は、やや深めのローストで苦みを強調したコーヒーシロップを練り込んだ自家製カスタードクリームを、厳選したヘーゼルナッツとともにクロワッサン生地で巻き上げた、本場”パリでも食べられない”レアなヴィエノワズリー。
少しビターなコーヒーの風味と香ばしくローストされたヘーゼルナッツが絶妙な組み合わせで、焼きたてをミルクたっぷりのカフェオレとともに味わいたい。
クロワッサン
伝統的な製法を次の世代へ繋ぐ、RITUEL (リチュエル)のクロワッサン。
買った翌々日にトースターでリベイクして食べたのだが、そのクラストの食感と言ったらたまらない!
まるで焼きたてのようにザクザクと力強い歯ごたえと、美しい層を成していた生地が口の中でほろほろとほどけていく食感は、クリストフ氏の「クロワッサンはクラストを味わうためのパンであるとわたしは信じている」という言葉に頷くほかない。
この美しく重なった生地の層こそが熟練した職人の成せる技で、おいしいクロワッサンの秘訣なのだと、店の人が教えてくれた。
リベイクして何もつけずにそのまま食べても十二分においしかったが、次はクロワッサンサンドやジャムなどをつけて味わってみるのもおいしそうだと思った。
ひとつ600円ほどするヴィエノワズリーたちは正直決して安いとは言えない。
しかし、機械に頼って作るパン屋が増えているなかで、手間ひまを惜しまず30時間を超える長時間の熟成を経て、ひとつひとつ丁寧に手作りされていることや、素材へのこだわりを考えれば、RITUEL (リチュエル)のヴィエノワズリーにはその価値があると、わたしは思うし、また買いたいとも思った。
おいしさだけじゃない「RITUEL (リチュエル)」の魅力
決して安くはないRITUEL (リチュエル)のヴィエノワズリーを「また買いたい」と思ったのは、そのおいしさだけでない魅力があったからでもある。
RITUEL (リチュエル)は、よくあるパン屋さんの自分でパンを取ってレジに持っていくスタイルではなく、対面式で選んだ好みのパンを、店員が取っていってくれるスタイル。それぞれのヴィエノワズリーの特徴やオススメを聞いたり、会話を楽しみながら選ぶひとときを、わたしはとても楽しく感じた。選んだヴィエノワズリーをひとつずつ丁寧に、慣れた手つきでくるくるとペーパーにくるんでいく様を見ているのもなんだか楽しい。
並んだヴィエノワズリーを取るときにも、「お好みのものをお取りしますよ。どちらがよろしいですか?」と聞いてくれる。何気ないことだし、どれも同じでしょと思う人もいるかもしれない。けれどひとつひとつ手作りで少しずつ違いがあるカタチや焼き色、せっかく買うならば自分で選びたいもの。わたしはそう思うので、なんだか「いいな」と思った。
ショソン・ア・ラ・ポム・フレッシュを取るときには、裏返して焦げ目を見せてくれた。この若干焦げたような美しい焼き色は、表面に溶け出たバターがオーブンの熱でキャラメリゼされたもので、おいしさの条件なのだと話してくれた。
食べ物に限ったことではないが、作るということには背景があり想いがある。そんな背景や想いが感じられる接客がステキだと感じ、魅力的だと思った。だからわたしは、またRITUEL (リチュエル)に行きたい、そう思うし、人にも勧めたいと思う。
ユニークで味のあるイラストのパッケージにも注目!
イメージカラーはパリの「Du Pain Et Des Idées(デュ・パン・エ・デジデ)」と同じく爽やかなサックスブルーを用いているが、ペーパーバッグや包み紙などのパッケージは日本のオリジナル。イラストは日本人のエッチング・アーティスト(銅版画家)西脇光重さんが手掛けている。
どこか懐かしいような、それでいて海外の絵本の挿絵を思わせるような、ユニークで味のあるタッチが印象的だ。凱旋門やエッフェル塔、メトロの看板などパリの町並みを思い起こすイラストや、帽子をかぶったパリジェンヌやパイプをくわえた紳士が描かれている。
フードブランドにも力を入れている「Baycruse(ベイクルーズ)」が手掛けるブーランジェリー
RITUEL (リチュエル)は、「Baycruse(ベイクルーズ)」が手掛けるフードブランドのひとつだ。
ファッションに限らずファニチャーショップやライフスタイル全般を提案するようなブランドをいくつも持つ「Baycruse(ベイクルーズ)」だけあって、RITUEL (リチュエル)の店内の雰囲気やペーパーバッグなどのパッケージからもファッションブランドらしい洗練された印象を受ける。
パリの「Du Pain Et Des Idées(デュ・パン・エ・デジデ)」は、建物も歴史的建造物に指定されていて、店内もアールヌーボーの雰囲気漂う豪華で可愛らしい造りだが、「RITUEL par Christophe Vasseur (リチュエル パー クリストフ バスール)」は、実にシンプル。壁は白く、ガラスが多く使われ、開放的で明るい店内にはパリ店のアンティークな印象は全く見当たらない。
もちろんまったく別のヴィエノワズリー専門店としてオープンしたのだから当たり前なのだが、さすがファッションブランドが手掛けたブーランジェリーとも思える。
なんというか、良い意味でパン屋さんっぽさがないのだ。高級なパティスリーやショコラティエのような感じで、対面での販売スタイルもそういうことなのかもしれない。
ちなみに以前の記事「パンと場と間と東京タワー」の中で少し触れたことのあるブーランジェリー「GONTRAN CHERRIER(ゴントラン シェリエ)」も、「Baycruse(ベイクルーズ)」が手掛けている。
おもたせや手土産に、友達や家族で集まるパーティシーンに持っていきたいベイク(焼き菓子)たち
今回わたしが買って食べたヴィエノワズリー以外にも、気になるメニューがあった。
ホリデーシーズン限定の焼菓子「マカロン・バスク」や、キリストの生誕を祝う「L’epiphanie(公現祭)」に欠かせない「ガレット・デ・ロワ」だ。こちらの冬のこの時期だけしか食べられないメニューもぜひ試してみたいと思った。
年末のホリデーシーズン限定焼き菓子
マカロン・バスク
1個:130円 5個:640円 20個:1990円
「マカロンの原型」と言われる、アーモンドプードルと砂糖、卵白のみで作り上げた歴史ある焼き菓子。
パリで一番おいしい!と称された「ガレット・デ・ロワ」
GALETTE DES ROIS ガレット・デ・ロワ
直径16cm:2500円 直径30cm:6200円
ラム酒とグランマニエが香るアーモンドクリームをパイ生地で包み込んで焼き上げたフランスの伝統菓子。
400年以上もの間フランスの新年を彩ってきた、フランス語で「王様のお菓子」を意味する「ガレット・デ・ロワ」。パリで一番おいしい!なんて言われたら一度は食べてみたい。
「ガレット・デ・ロワ」は12月31日まで予約を受け付けているらしいので、気になる方はぜひお店へ。
RITUEL par Christophe Vasseur
RITUEL par Christophe Vasseur Aoyama Flag Ship Shop
住所:〒107-0061 東京都港区北青山3-6-23 1・2F
表参道B2出口から徒歩0分
TEL:03-5778-9569
営業時間:月ー金 8:00-19:00
土日祝 9:00-19:00
RITUEL par Christophe Vasseur Jiyugaoka
住所:〒152-0035東京都目黒区自由が丘2-9-17 1F
東急東横線/東急大井町線 自由が丘駅 徒歩4分
TEL:03-5731-8041
営業時間:月ー金 8:00-19:00
土日祝 8:00-19:00
テイクアウトのみ